隠里の霊
二本松市

 むかし長者宮というところに、虎丸長者という豪族がおりました。ある日、虎丸長者の家にみすぼらしい若い娘が袋に入れた米をもって売りに来ました。

 それをかわいそうに思った虎丸長者の召使いはその米を買ってやることにしました。

 若い娘が袋からむしろに米をあけたところ、あとからあとから米が沢山でてきてむしろいっぱいになったので、召使いはびっくりしてしまいました。次の日同じ時刻にまた若い娘がやってきました。「米を買ってください。」というので買ってやると昨日と同じようにむしろいっぱいの米が出てきました。毎日同じ時刻に来て「米を買ってください。」というのでその度に買ってやると、いつの間にか米が沢山になり米蔵がいくつも出来ました。

 

 ある日のこと長者の家では召使いに娘のあとをつけさせました。長者宮の辺りは起伏があり窪地には菖蒲も生い茂り森の中には榎の大木もありました。召使いが急いで大きな木の所まで行ってみると娘の姿はもう見えません。はてなと思ってあたりを見回しましたが全然見当たらないのでしかたなく召使いは長者の家に帰りました。

 そしてその話をすると本当に不思議な話だといわれるようになりました。あとを追われた娘は森の中の大きな榎にかくれたので、榎のかげの集落を「隠里」というようになり、現在も隠里の地名が残っております。

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