一の谷の合戦で破れた平家軍は西へ逃れておりました。逃げ遅れた一人の武将を熊谷次郎直実が呼び止め、一騎打ちをして組みしき、いざ首をはねようとした時です。あまりにも若く、自分の息子と同じくらいなので 一瞬躊躇しましたが、敦盛の毅然たる様子に、涙ながらに首をはねたのです。そしてその首を総大将義経の前に差し出すと、すぐに暇ごいをし、出家して、供養と諸国行脚の旅に出ました。

　敦盛が京にいたころ懇ろであった白拍子の麗御前は、敦盛の子を身籠もっておりました。敦盛の死を知った麗御前が自害をしようとしたところに、源氏の大将佐藤忠信の家臣小槻隆国が偶然にも会い、自害をとどめ、自分は陸奥国安達の庄の住人であることを告げて逃げ延びることをすすめました。

　その後麗御前は従者とともに東へ東へと進み、南会津の桧枝岐村まで逃げ延びて、愛する敦盛の子を産み、敦盛の一宇をとつて、小敦と命名しました。麗御前は自分を助けてくれた、優しい小槻隆国が隣国に住んでいることを想い、小敦が大きくなるに従って会いたさが募ってきました。平家の残党刈りの厳しい中、村人が止めるのも聞かず、二、三の従者を連れて、安達の庄近くに来ました。しかし、安達の庄も源氏の勢カ下であることを知ると、せめて近くにと、岳街道わきに庵を作って住むようになりました。そのうち、安達の庄に帰った小槻隆国は、麗御前親子がすぐ近くに来ていることを知り、会いに行き互いの無事を喜び合いました。ここは危険であることを伝えましたが、麗御前の気持ちを知ると、衣・食などを運び親子二人の面倒を見ていました。しかし、このことはやがて鎌倉幕府の知るところとなり、討手を向けられて、三人はあえない最期を遂げたのでした。三人の死をあわれに思った里の人々は、懇ろに弔い塚を作って供養しました。