鹿の鳴き石
二本松市(旧安達町)

 渋川二本柳の円東寺わきから福島市松川町に向かう旧奥州街道を三・四百メートルほど進んだ小取揚の道端左手に「鹿の鳴き石」と呼ばれる自然石があります。

 地上に出ている岩の頭部は、半径およそ1メートルほどのもので、その表面に動物の爪跡が残されています。この足跡こそ悲しみを背負った鹿のものだったといい伝えられているのです。

 昔、二本柳と長谷堂とのほぼ中間に当たる所に大きな沼があり、その沼の土に竜神が住みついておりました。ところがある日大雨が続き、沼の上堤が決壊したため、いっぱいたたえられていた水が流れ出てしまいました。

 それどころか、沼の主の竜神の連れ合いもその姿を消してしまったのです。嘆き悲しむ竜神は、ついに鹿に化身してこの自然石の上に立ち、四方八方に体をめぐらしては啼き、悲痛な声をしぼっては、妻の名を呼び続けたのでした。

 

だが探し求める相手はついに見つかりません。そのため悲嘆にくれながらとぼとぼと山を越え、十湯の女沼に住みついたと、今に伝えられております。

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