二人は、とうとう京の都に着き、都暮らしが始まりました。お杉は都で育った者のように都暮らしがなじんでおりました。けれども、ときどき庭にでては遠くの空をぼんやり見つめているときがありました。その姿がさびしそうなので精顕は、
「お杉、なにか悲しいことでもあるのか。」
と、尋ねますと、
「いいえ。」
とはいったが、何度目かに、
「あなたとこうして一緒に暮らせることは、このうえない幸せです。でも、一つお願いがあります。私の国では一生に一度お伊勢まいりに行く習わしがあります。私も一度行ってみたいのです。」
「おお、そうだったのか。」
精顕は、さっそく旅支度にかかり、お杉を連れて出掛けることにしました。
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旅の道々お杉は、うれしそうにはしゃいでおりました。二人は無事に伊勢に着きました。お杉は、長いこと社の前に額突いていましたが、やがて静かに立ち上がると、辺りに立っている杉木立のあいだを、さも懐かしそうに歩き回りました。
「あなたさま。」
お杉は精顕の前にくると静かにうなだれていいました。
「私、一生に一度の望みをかなえて頂きました。でも、もう一つ、もう一つだけお願いがございます。」
「いってごらん。」
するとお杉は、一度杉沢の里へ帰りたいというのでした。そこで、やさしい精顕は、お杉を連れて陸奥に旅立ったのです。
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