船形山善応寺の天狗
二本松市

 みすぼらしい姿の坊さんが船形石集落を通った時、一軒の農家で草屋根の葺昔えをやっていました。「やあ、ご苦労、大分よくできたな、これから屋刈りをするのか、屋刈りには二・二人の手間がかかるだろうな、俺なら一瞬の間に屋刈りをしてみせるが……」といったので、屋根葺は驚いてしまいました。

 「和尚様、そんなにすぐに、屋刈りができますかね。」と聞くと、和尚は「なに、訳はないさ。」というので「それでは、一つ頼みます。」と、屋根葺は半ばうたがいながらいいました。すると「よし」といって和尚は、梯子を上って、今葺替えてできあがったばかりの屋根に上がりました。何か口の中で呪文のようなことを唱えて、屋根に火をつけました。みるみるうちに、火は燃えあがって、今にも火事になりそうでしたが、呪文によって、ぐしのところまで火が延びたかと思うとたちまち火は消えてしまいました。あとには黒い灰のみが残っていました。

 

「さあ、できあがった。あとを奇麗に掃くんだ。」といって去って行きました。屋根葺があとを掃いてみると、なる程鋏を人れたように奇麗になっていたといいます。これは、和尚が火防の秘法を修めていたからだといいます。これによって火防の神様と信仰されるようになりました。

 善応寺の住職になってから、ある日のこと、里の童に「明日は、京都の祇園祭だから連れていってやろう。」といい、翌日、その童を法衣の袖に入れ、一瞬のうちに京都に着き、終日祇園祭を見て、帰り際に京菓子を士産として買い、一瞬のうちに帰り着いた。童は家の人にそのことを話したが、誰も信用しませんでした。しかし京菓子を見せられてはじめて奇異感におそわれました。

 

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