才木の嫁石
二本松市

いつものことで聞き慣れているとはいえ、楽しみにして持っていた此の日です、「行ってきます」と挨拶もそこそこに出掛けました。

 毎朝畑に通い慣れた才木の山道です。「早く母に会いたい」「弟や妹に会いたい」と気が急ぐのですが、日頃働き過ぎて体が疲れているせいか、少し休んで行こうと思い、道端の小さい石に腰を下して休みました。汗を拭きながら今上って来た方を見下ろしました。何と静かな平和な村のようです。自分が日頃いじめられている事が嘘のようです。

 里に行かれるという一時的な安心感と、働き過ぎて疲れている為とでついうとうとと居眠りが出てしまいました。夢の中に出てくるのは、父や母、弟妹達、小さかった頃仲よく遊んだ事、夫春五郎と一生懸命働いた事等が、走馬燈のようにぐるぐる回るのでした。今此処に居るのがとても幸せで此の侭此処に居たいという思いに変わってきました。

 

「体が動かない」「此の侭伊たい」「早く帰りたい」という気持ちが重なり合っています。

 その時、すーっと白いものが夢のなかに立っているのでした。それは長い口い髭をたくわえた老人でした。老人は「お前は本当によく働く嫁じや、私はお前が可哀想で仕方がない。これから楽にしてあげよう。」といって持っていた杖でおはんの体をなでて姿を消しました。おはんは母の待つ里へ帰らず、春五郎の待つ家にも帰らなかったのです。

 才木から小関に抜ける山道のかたわらに、女の人が寝ている姿に見える石があります。その石がおはんの変わった石であるといわれ、嫁石といわれています。夢に出てきた老人は、その近くの神明様という神様が現れたのだといわれています。

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