夏無し沼の大蛇
二本松市(旧東和町)

 昔むかし、大昔の口太山は鬱蒼と大木の密林となっていた。その緑樹にかこまれて大きな池があり、山頂も近く、木陰と涼風にて夏も暑さ知らぬ所なのでこのような事から、いつの間にか村人達が夏無し沼と言うようになった。昼は空を往く雲の影、夜は星月を水面に写して静寂。不気味な沼である。この沼には恐ろしい主が居り、それが大蛇だと言い伝えられて村人達はその沼の主に怯えていた。

 朝、馬を引いて草刈りに登ったら、沼の岸から遠く山までうねうねと青草が靡いて道になっていた。大蛇の通った跡だと真っ青になって山を下って来た話。向隣の子馬が突然消えたのは大蛇に舌まれたに違いないというような訴えが絶えず、困り果てて暮らしていた。

 沼の主が怒ると風を呼び、雲を集め、雷雨、大暴風、雨を降らし山を崩し、田畑を荒し作物ことごとく皆無となるので百姓達は恐れ恨んでいた。

 

沼の水を干せば主は居なくなる、「そうだ。」「そうしよう。」と幾度もの寄合に話は出るが、沼の主の恕りと祟りに怯えて、いつでも沙汰止みになっていた。

  近くに恵智之丞という優しい若者が居り、この村にも珍しい程の勇気と根性のある若者だった。沼の土手堤を掘り割り、水を流し沼を干してみる事に決心し屋敷の皆に相談した。集まってくれた人達も賛成してくれたので、晴れた或る日のこと、鍬・唐鍬を担い揃って山に登った。掘り始めてしぼらくすると沼の主が悟ったのか、一天俄に掻き曇り先刻まであれ程澄んでいた空もうそのように変わり、雷雨沛然たる大雨となった。人達は雨の止むまで中止となり下山したという。

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