夏無し沼の大蛇
二本松市(旧東和町)

「でも一度決めた事だ。」とそのあとで何回も山に登って沼の堤を掘り下げ、切りさげた。流れ出した水は土を削り滔々と流れ出し、滝となり瀬をなして谷川をあかくそめ、大河のようにいっぱいに流れ、沼の水は見る見る減って行くのを見ていた。人々は今にも沼の主が現われるのを恐れて山を降りた。

 そのタ刻より小雨となり、タ闇迫る頃、恵智之丞の戸口にどこからか来たのか、蛇の目の傘を寺した見馴れぬ中年の芙女が訪れて来て「ながながお世話になりました。」と挨拶した。家の中にて恵智之丞は、「はてな、合点ゆかぬ。」と思ううちに濃い霧の中に消えてしまったという。その真夜中黒い雲が沼あたりまで包み、稲光も烈しい大雨だった。主の大蛇がこの黒雲に乗って遠く吾妻の女沼を目ざして飛んで行ったと言われている。

 

  2/2 前のページへ
地図に戻る