「お、お婆様。私は母を尋ねて陸奥へやって来ました。ここで死ぬのも運命でございましょう。で、でも、もしいわてという私の母に会うことがあったら、む、娘の恋衣は死んだとお伝えください。そして、こ、このお守り袋を渡して……。」
「な、なんと、お前がこ、恋、恋衣とな、わ、わしの娘の恋衣……。」
お守り袋を手に、こわばりふるえだすいわての五体、しかしもはやなすすべはありません。
やがて岩屋からよろめき出、青白い月に乱れ白髪をなびかせながらさまようお婆の姿は、すでに狂人そのものでした。
一方、やっとのことで手にした薬をたずさえ、岩屋にもどった生駒助が目にしたものは、妻の変わり果てた姿でした。どん底の悲嘆に、自らの胸を刺して妻の後を追う生駒助──。
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── 幾年月かが過ぎ去って行きました ──
晩秋のある日、岩屋の前に立って案内を請う、一人の老僧がありました。
「旅の僧だが、一晩泊めてもらえませぬか。」
熊野の那智社(和歌山県)で修業を積んだ、阿闍梨東光坊祐慶という名の高僧でした。しかし岩屋の客となった祐慶ほ、お婆が薪を取りに外に出た折り、何気なくのぞいた隣室に、山積みの白骨を見てしまったのです。
「さては、噂に聞く鬼婆のすみかはここか。」
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